昨年のことです。海外遺産のご相続に必要な書類に公証(Notarization)を取得する必要がでてきました。海外の遺産相続には、必ず付き物なのが「公証手続」です。
実は、アメリカでの「公証」に対する認識と、日本でいう「公証」に対する認識は異なる部分があります。
簡単に言えば、アメリカで公証といえば、(語弊があるかもしれませんが)比較的カジュアルな印象であり、市民生活の中に馴染みがある行為といったところでしょうか。一方、日本では、公証というと、あまり日常的には行われない行為であり、少し敷居が高く馴染みがない行為というように感じます。
日本の印鑑文化と公証
なぜ日本では公証という行為に馴染みがないか、というと、ひとつの理由として、日本では押印文化が根付いていることも挙げられるかもしれません。
印鑑登録という制度もあり、本人作成の書類であるということは、印鑑を持って証明することができます。そのため、わざわざ、手書きの署名を第三者が証明する、といった手続が必要ないから、というわけです。
2020年現在、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、押印廃止、書類の電子化を進めるなどの流れが加速しているようですが、印鑑には、日本における書類作成を便利にしてきた側面があると思います。
なぜなら、もし印鑑が無ければ、本人作成書類ということは、欧米と同様に署名で証明する必要があり、「その署名が本人のものである」ということを証明するための制度や仕組み、が必要となってくるからです。
アメリカでは、銀行で、その銀行と一定の取引がある顧客であれば、その顧客の署名を保証するサービスも提供しているところもありますし、Medallion Guarantee Signature(メダリオン署名保証)などというものもあります。(これまた日本在住の人にはやっかいな制度ですが…)要するに、欧米におけるこれらの署名を保証する制度は、印鑑が無い故に発展してきた制度なのかと思われます。
「その書類の署名が本人のものである」ということを証明する必要が無く、自治体で数百円で取得できる印鑑登録証明書などで本人作成書類であることが証明できるのは、こう考えてみると、便利な制度ですね。
まあ、すべてオンライン化になっていくのであれば、セキュリティが担保される限り、オンライン署名というのでしょうか、それが一番便利なのではと思いますが…。
印鑑についての話は長くなってしまいますので、話を元に戻します。
日本の公証とアメリカの公証の違いがどこからくるものか、ということについては、印鑑文化の有無以外には、日本の公証制度が、もともと大陸法由来のものであり、英米法由来のアメリカ等の公証とはとらえ方が違う、ということもあると、随分前に公証人の先生からお聞きしたこともあります。
(その先生は『格式が違う』という言い方をしておられました。)
アメリカのオンライン公証
海外の遺産相続を進めていたとき、海外での手続を担当しているアメリカの弁護士と、日本での公証は、アメリカでの公証手続を行うより、料金も高く、個人にも馴染みがない…などと、話をしていたところ(つまり、私としては、お客様にご負担いただく費用が嵩んでいくため、気軽に公証を求めないでほしいという意図もあったので…)、
「それだったら、アメリカの〇〇州ではオンラインで公証することが可能になったので、オンラインでやってみますか」
という提案をいただきました。
おそらく、私が、「日本での公証には費用がけっこうかかるし、一般には馴染みがないものなんですよね」と伝えたことを受けて、アメリカではそれに比べて安価であるし…、ということでの提案であったかと思います。
ありがたいことですが、時差があること、言語の壁があること、そして、高齢のご相続人様がオンラインで対応すること諸々を加味し、やはり日本で公証を取得することにしました。
しかし、もし、日本にいながらにして、オンラインでアメリカで公証が取れたら、便利ですね。もし機会があればトライしてみたいところです。
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